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「貧乏人は死ね」と言わないリバタリアンならば

 昨日の記事へのトラックバックをいただいた。
 富の再分配について@fujixeの日記


 リバタリアンって面白いな、と思うところは、第一にそのアンバランスさである。すなわち、政府は常に失敗すると想定されている一方で、政府による再分配がないところでの、自発的贈与による分権的再分配が成功するという見積もりを持っていることである(少なくともそちらの可能性の方が高いと見積もっている)。──しばしば福祉国家論者が現実の市場と理想の政府を引き比べて何でも政府の仕事にしたら良いと主張するのに対して、リバタリアンは理想の市場と現実の政府を比べる。正直、どっちもどっちだよな、とか思う*1。──ただまぁ、現実の政府のダメさ加減=政府の失敗を最大限に見積もるならば、それでもどの程度のことは言えるか、ということは考えておいていい。


 政府の失敗、つまり政府が徴税で集めたお金を適切に使わない、何か良からぬ事や一部の人々の利益誘導に使ってしまうのだ(雑な説明)、という説が正しいとして(程度問題はあるにせよ、これは実際正しい)、それに対置しうるのは、個人の自発的贈与だけではない。単に、全員から徴税したものを、均等に頭割りにする、という単純な仕組みを導入するならば、政府の失敗する余地はほとんどない。つまり、いわずと知れたベーシック・インカム(BI)である。政府を一切信用しないが、しかし、それでも「貧乏人は死ね」とは言わないタイプのリバタリアンであり、かつ、その人が政府に対するときの半分でいいから個々の合理的個人の徳性が存在するかどうかという前提に対しても批判的視線を投げかけるなら、自発的贈与よりはずっとマシな方策としてBIという制度が浮かび上がってくるはずである。*2

 実際、ミルトン・フリードマンは、「負の所得税」という、理屈の上ではBIとほとんど変わらない制度を強力に提案する段階に、一度は至っている。──もっとも、いろいろ丁寧に読んで行くと、結構温度差はあり、まったく無批判にフリードマン万歳とはいえない要素があるけれども。しかし、それでも、最低限、「負の所得税」までは行くはずである。リバタリアンなら、BIないし負の所得税に賛成するか、さもなければ、「そんな制度よりも自発的贈与の方が信頼できる」と本音をぶちかまして欲しいな(多分そこは、笑うところだ)。


 ただし、僕個人としては、負の所得税だろうとBIだろうと、「それだけ」を主張するなら賛成しない。というのは、どう考えてもBIでは足りない人がいるんだよな。24時間常時介護が必要な人は、とりあえず週40時間労働者に換算すると、24時間×7日÷40時間=4.2人必要、って計算になる。どう考えても、「この人には多めに渡す」って制度がないと無理なんだな。だから、BIだけでは足りず、「より多くのニーズを持つ人に、より多くの資源を分配する」、そういう福祉国家的制度は必要になるだろう。先の議論は、リバタリアンであっても「貧乏人は死ね」と言わないならば、少なくともここまではいくでしょ、という話。

※ 負の所得税とBIの親近性については、次の二つ。『自由と保障』の第五章。英語の本では、最初のVan Parijsの論文の付録。

自由と保障―ベーシック・インカム論争

自由と保障―ベーシック・インカム論争

Redesigning Distribution: Basic Income and Stakeholder Grants as Cornerstones for an Egalitarian Capitalism (The Real Utopias Project)

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*1:ちなみに、「貧乏人は死ね」と本気で言うリバタリアンも存在する。確かロシアのなんとかいう人。忘れた。

*2:先日、経済財政白書で負の所得税が取り上げられた件で、リバタリアンらしき人がこれを褒めながら、BIの非現実性を笑っている記事を見かけた。どう理解したらよかったのか、未だに分からない。