モジモジ君のブログ。みたいな。

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北朝鮮の「人工衛星」雑感

【追記アリ】【もう一つ追記】
 次の記事はとてもおもしろいので、是非参照してください。>「日本が北朝鮮に宣戦布告した件について」@media debugger
 以下、それとは別の話をダラダラと。>するつもりだったんだけど、別の話にならなかったな。

日本政府の主張は無理筋

 北朝鮮がロクデモナイ国だということは知っている。日本という国も、その質に多少の違いはあれども、かなりロクデモナイのも知っているけども、それはとりあえず措く。北朝鮮の「人工衛星打ち上げ」はミサイル技術の誇示以外の何物でもないとは思うが、公式に「人工衛星」と言い張っている以上、それを覆すだけの材料もないなら、「ミサイル」と言い張ることになんの益もない。そこに弾頭が取り付けられている、とでも言うならともかく。一方で、北朝鮮は宇宙条約に批准した上で、国際法上の形式を整えた上で「人工衛星打ち上げ」と言い張っている。これを「ミサイルだ」「挑発だ」と言い張ったところで、状況証拠しか示せないのでは話にならない。

 認めたくないことかもしれんが、日本が北朝鮮に対して行っているのは、相手の主張(=「人工衛星」)を無視して己の主観のみに依拠した「恫喝」であり、普通に外から見ればかなり奇異な印象を与えるのではないか、と危惧する。てゆーか、内から見ても奇異だ。つまるところ、こういう言いがかりをつける国である、という実績を作らされたことになってるだけじゃないか。

国際社会での信用

 こういう奇異なロジックが通用すると思うのは、「北朝鮮は「異常な」国であり、国際社会でも当然そう扱われるはずである」と信じているからなんだろうか。しかし、日本は子どもじみた歴史認識を捨てられないせいで、もっとも近しい隣国から最大級の不信感を買っている国であるという自覚があれば、そこまで単純な認識にはならないだろう。しかも、北朝鮮と境界を接する、対北朝鮮外交に際してもっとも重要な二国に対して、である。両国からすれば、北朝鮮は酷いが、日本も酷いし、しかも、より警戒すべき、くらいに思われている。外交政策として言えば、その時点で北朝鮮に勝てるわけがないと言っていい。この二国以外について言えば、ほぼすべての国にとっては、北朝鮮がどれほど酷い国であれ、遙か彼方にある直接の利害関係のない国でしかない。つまり、関心がない。あるいは、関心を寄せてもらったところで、なにができるだろう。まして、日本が示しているのは状況証拠でしかない。日本に同調して北朝鮮を非難しはじめる国が出てきたとしたら、むしろ驚く。

 日本が国際社会で積み上げてきた信用なるものを言う人があるが、そもそもそんなものどこにあるの、という話だ。中国と韓国については既に述べたから繰り返さない。その他アジア諸国における日本に対する視線にしたって、控えめに言ったとしても、アンビバレントなものだろう。開発援助に寄せる期待はもちろんあるだろうが、利益誘導の論理でゆがめられた援助のあり方への批判も多い。戦争責任についてほっかむりしているという問題は、ここでもある。先日強制送還された「同胞」を見て、フィリピンの人々は日本社会にどんな印象を持っただろうか。etc...。

 もちろん、「日本は世界中で嫌われている」とまで言うつもりはないが、少なくとも、状況証拠に依拠しただけの無茶な主張に寄り添ってくれる友好国があるはずだ、それも国連で力を持ち得るほどの多数派として、というのは、あまりといえばあまりに幼稚な現状認識ではなかろうか。かなりひいき目に言ったとしても、日本から見て他の多くの国もそうであるように、日本はいいところもあれば欠点もあるたくさんの国々の一つである。その中では、相対的に経済力のある、頼れるかもしれない国ではある。ただし、それ以上のものではない。あまりにも美化された歪んだ自画像に基づいた外交政策。「君たち、俺のこと好きなはずだろ」、みたいな。これほど恥ずかしい構図は、他にちょっと思いつかない。

当面できそうなこと、もう少しできることを増やすためにできそうなこと

 当面できそうなことは、宇宙条約にしたがった適正手続きを厳密に求めることと、これまた宇宙条約にしたがって国際的な協議を要請するくらいのことだろう(m_debuggerさんとこで論じられているように)。しかし、たったこれだけのことではあっても、「協議が要請されているにも関わらず打ち上げを強行した」となれば、印象は変わってくる。北朝鮮も、多少は考えた反応をする必要が出てくるだろう。そういう小さいことの積み重ねで状況を作っていくのが外交ってもんじゃないのか。「北朝鮮がロケット技術の軍事利用を放棄し、厳密に平和利用のみを行うと表明したことを歓迎する」くらい言ってやりゃあいいのに、と思う。

 それに引き替え、今の日本政府の態度は、北朝鮮に強行な姿勢を示してカタルシスを演出することにしかなっていなくて、いったいどういう落としどころを念頭においての態度であるのか、まるきり意味不明である。別様に言えば、完全に国内向けの態度であって、そもそも外交にまったくなってない。つくづく幼稚な政府である。*1

 それと、返す返すも思うのだが、戦争責任の問題であれ、アメリカとの関係の問題であれ、日本政府はその外交基盤を、普遍性を持ち得ない場所に置き続けてきた。誠実に戦争責任に向き合い、中韓との対話を丁寧に積み重ねてきたならば、国際秩序が一人一人の「人間の都合」に寄り添ったものになるように努力してきたならば、どれほど状況は違っただろうか。拉致問題のような明白な不正義に関してさえ、冷淡な反応しか得られないのがなぜであるのか、少しは考えたらよさそうなものなのに。

追記 領土にロケットの破片が落ちてくる危険性について

 それこそ、宇宙条約にのっとって、協議を持ちかけうる大事な論点だと思うのだが。しかし、打ち上げられるものが「ミサイル」という前提で話している限り、協議を持ちかけること自体ができず、結局「北朝鮮は好きに打ち上げてください」と言うことにしかならんわけだ。

 つまり、落下物の問題を俎上に乗せるためには、「人工衛星」という前提で発言する方がいい、ということ。どうして国士様たちには、こういうことがわからんかね。

追記 「疑う」について

id:gokinozaurusu 中距離短距離ミサイルも寄せ集めてるようだけど、これでも疑うな、と?

 ホントに日本語能力が心配になりますが、疑うどころか、「北朝鮮の「人工衛星打ち上げ」はミサイル技術の誇示以外の何物でもないとは思うが」と、のっけから断言してるのね。僕の主観的認識としては。

 こちらの主観的認識が「ミサイルに関わる技術開発でしかありえない」であるときに、それを止めるなりなんなりしたいときに、バカ正直に「ミサイルに違いない」と主観的認識を垂れ流す以外のもう少し賢いやり方があるでしょう?という話をしています。

*1:その背景にあるのは、なんでも強硬路線でカタがつくと考える素朴な権力志向が日本社会に広範に行き渡っていることにあるだろう。「政府がバカ」というだけでは済まない、「私たちがバカ」という問題だ。