普天間基地県内移設に合理性は皆無
この人、軍事に詳しい人、とされてる人ですよね、一応。なーんなんだろ、この妄説は。
米海兵隊の戦略と沖縄
マジレスすると、海兵隊にとって重要なことはヘリや支援戦闘機、揚陸艦、上陸部隊が一体となって行動できること。その意味で言えば、佐世保の揚陸艦艇、岩国の支援戦闘機などと一体運用するためには、民間の飛行機がほとんど使ってない佐賀空港あたりにでもヘリ部隊を移し、付近に上陸する地上部隊の駐屯地を作るのが一番いい。九州には自衛隊の演習場も多くあり(大分など)、米軍にとっては願ってもないロケーションだ。ついでに言うと、北朝鮮までの距離も半分になる。文句のつけようがない。戦略戦術をいうなら、断然九州。
地政学的に沖縄にあることが重要といえそうなのは、嘉手納基地(空軍)くらいでしょう。海兵隊については、沖縄にある必然性はまったくないどころか、分散配置のためにかえって運用しづらい状況になっているというのが実情だ。よって、純粋に軍事的観点のみから言うならば、普天間基地の移転先は九州がベスト。異論の余地なく。
では、なぜ、沖縄になるのか。純粋に政治的理由である。元々、沖縄の海兵隊が駐留していたのは岐阜と山梨である。これが1956年、沖縄に移設された。理由は明らかにされていないが、陸軍省も海兵隊も反対していたのだから、少なくとも軍事的必然性からでなかったのは確かだ。状況証拠的には次のようになる。当時の日本では、反米軍基地運動が激化しており、基地の拡張どころか維持さえ政治的な困難に直面していた。冷戦下、基地の縮小はありえない。それで米軍統治下だった、つまり、高等弁務官の布令一つで自在に土地の収用、基地の建設が可能な状況にあった沖縄へ、ということになったのではないか。これ以外の合理的説明を僕は知らない。
だから、日米安保を支持し、純粋に軍事の観点からのみ議論し、負担を押しつけられる地域住民に一切の思いをはせないとしたならば、海兵隊の移転先はとりあえず「九州」と言うべきでしょう。もちろん、僕はこの案にも賛成しないけども、それでも、「九州」と言うなら額面通り「純軍事的に」考えたのだろうなぁ、とは思える。しかし、「純軍事的な理由で沖縄」というのは、単にモノを知らないのか、あるいは、連綿と続けられてきた沖縄社会に対する差別構造を隠蔽するためか。いずれにせよ妄言以外ではない。
台湾危機と米軍基地
台湾というのは、2000万人余りの人々が暮らす生活圏である。だから、台湾の人々にとって重要なことは、自分の生活圏が戦場にならないことであって、戦争になったら、その時点で「負け」と言っていい。なにより、戦争にならないことが大事なのである。「在日米軍で台湾を守ろう」などと言うのは、台湾を「日本にとっての緩衝地帯」としか見ていない連中*1の発想であって。
そして、最近の中国政府が発している数々のシグナルを見る限り、「独立宣言しない限り軍事侵攻はない」ということであり、その意味で、イニシアティブは台湾側が持っている。戦争したくなければ、独立宣言さえしなければいい。では、「独立宣言をしない」とはどういうことか。これは現に占領下に置かれている人々が行う分離独立闘争をしない、ということではない。台湾(中華民国)は台湾全土を実効支配しており、独自の政治組織を持ち、国際機関への加盟を阻まれている面は難儀しているとしても、政治・経済その他の面での国際的な交流も持っており、実質的に独立国として機能している。つまり、「独立宣言をしない」とは、現状の「実質的な独立状態を維持する」ということであり、中国政府の支配下に置かれてしまうのとは訳が違う。その意味で、チベットとはまったく異なる。
だから、実際、「中国と戦争になってもかまわないから独立宣言すべき」とする台湾人は、リアルでは会ったことがない。その類のことを言う「芸人」はメディアで時々見るけれど、そんなのに共感している人はほとんどない。当然だろう。台湾の人々において、殊更独立宣言を急ぐ必要性などないのだから。ただし、ついでに言えば、たとえば、そもそも中国政府が「独立宣言したら武力行使も辞さない」などと恫喝してくることについて、不快感を持っていない台湾人も、これまたリアルでは会ったことがない。それも当たり前の話だろう。急進的独立派ではない台湾人というのは、そうした状況を前提として、あくまでも現実の国際社会の処世術として「現状維持」を支持している、ということ。
さらに、中国側にとってさえ、軍事侵攻する意味がない。経済的結びつきは急速に深化しているし、仮に統一するとしても、台湾に存在する経済インフラに傷をつけずに手に入れるのでなくては意味がない。では、なぜ独立宣言はさせたくないのか。独立宣言されると、中国政府としても態度を「決定」しなければならない。独立宣言を容認すれば、国内の民族主義的な(損得勘定のできない)統一派の批判にさらされるし、かといって、軍事侵攻して得るものなど何もない。それよりは、中国の現政権も「現状維持」を望む、ということになる*2。よって、台湾が性急な独立宣言をしない限り、あそこで戦争が起こることはないし*3、台湾側にもそんなことをしなければならない喫緊の理由もないので、普通にあそこで戦争は起こりません。
それでも、軍事的に抑止することは必要だ、と考えるならば。第一に、在韓米軍のように「有事には米軍がコミットすることの証」、ひいてはそれがゆえの抑止力というものであるならば、米軍が台湾に駐留するしかない。しかし、それは政治的に無理でしょう*4。第二に、純粋に軍事的なプレゼンスとしての機能を期待するのであれば、それに貢献しているのは嘉手納の空軍であり、横須賀の海軍であって、海兵隊ではない。あるいは、少なくとも、沖縄の海兵隊は九州に移設した方が軍事的プレゼンスが高まる。なにをどう考えても「県内移設」はありえない。
中国側の識者?
台湾海峡有事の際、開戦初頭に中国の特殊部隊が台湾行政府・軍指揮施設を占拠し、台湾軍の指揮系統を麻痺させ、本隊の侵攻を助けようとする手段に出て来た場合、もし自力で特殊部隊を排除できなければ組織的抵抗を行う事すら困難になります。
それやって、中国側の誰が得するの?という話なわけですが。そんな作戦が実行に移された瞬間に台湾経済は壊滅的な打撃を受けるでしょうし、台湾を支配する意味そのものがなくなるでしょう。軍事それ自体が目的化した「大戦略」脳のトンデモ以外、こんなこと考えません。
ご丁寧に中国側の見解「普天間基地移設先は沖縄西南部への前進配備となるだろう」を紹介してますが、「人口密集地の名護市を避け、沖縄西南部の無人島を利用する」などというのは噴飯モノの見解です。第一に、「沖縄西南部の無人島ってどこやねん」という話です。第二に、「無人島に1万数千の兵士を駐留させるのに、どんだけコストかかる思ってんの?」という話なわけで。戦時の一時的なベースキャンプならともかく、平時の配備先として、ですよ?当たり前のことですが、兵士もまた人間なのであり、1万数千もの人間が生活するならそれなりのインフラが必要になるわけですが、それをゼロから作るコスト考えたら、これがどれほどバカみたいな話かわかるでしょう。
日本側でも、このレベルの中国脅威論をぶつトンデモ論客が大学教員であることは珍しくもないので、あちら側にもその類の人がいる、ってことでしょう。
最後に
なにをどう考えても海兵隊の沖縄駐留に軍事的理由なんかない。沖縄駐留が決まった最初の最初も政治的なら、その後の駐留継続もずっと政治的に決まっただけ。アメリカ政府としては、置けるところにおければいいし、日本政府としては、沖縄に押しつけ続けている限り他の国民大多数の批判を浴びなくて済むし。そして、沖縄に押しつけ続けていることの差別性を隠蔽し、良心を慰撫するために、「地政学的重要性」なるものが捏造される。「東アジアのキーストーン」とかなんとか、ちょっとかっこいいキャッチコピーが作られたりする。そういうことまで含めて、すべては政治であり、差別である。
逆に、真面目に軍事的に考えたら、海兵隊の沖縄駐留だけはありえんよ。それだけはハッキリしてる。
最後に、最近読んで一番よかったネタ本。ただし、現在品切れ中。
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