読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

モジモジ君のブログ。みたいな。

はてなダイアリーから引っ越してきました。

台湾総統選挙

 国民党の馬英九氏が当選した。
 報道なんかを見ると、経済重視の国民党・馬氏、独立路線の民進党・謝氏、という構図でまとめられているけれど、それほど単純なものでもない。少なくとも、民進党も国民党も、8年前の陳水扁が当選したときとは違う。そのあたり、思い当たることをつらつらとメモっておく。


 まず、民進党。とにかく、この8年間の腐敗は酷かった。陳水扁の家族も含めて、出るわ出るわの金銭スキャンダルのオンパレード。実際のところ、4年前の選挙で既に負けててもおかしくなかった。ただ、このときには投票日直前に陳水扁への銃撃事件が発生し、多くの票が民進党に流れ、結果、民進党が僅差で勝利した。国民党による恐怖政治はそれほど昔のことではないし、こういう流れは分からないではない。……のだが、この銃撃事件は民進党の自作自演が強く疑われており、いろいろ読んだ限りでは、その疑いはかなり合理的なものだ。もちろん、真相は分かっていない。

 いずれにせよ、民進党は4年前に命拾いしたわけだが、本来なら、そこで襟を正してクリーンな政治に立ち返り、その実績を作った上で今回の選挙に臨むべきだった、というのは自明だろう。しかし、その後も金に汚いのは相変わらずで、全然改善されなかった。そういう経緯を考えると今度という今度は引導を渡されるほかはなかった、と言える。とにかく、民進党の組織全体が腐っている。

 ただ、国民党とて李登輝以前は今の民進党以上に酷い政権だったわけで、別に、民進党だけが汚いわけではない。戦後長く続いた国民党一党独裁文化の中で、金権政治が台湾の政治体質になってしまっていた。民進党も、自分達こそ台湾人を代表する政党だという驕りがあったのか、誰のために働いているのかを忘れてしまったのかもしれない。いずれにせよ、今回民進党における失点はあまりにも明らかだ。


 ただ、選挙というものは消去法で選ばれるべきものでもない。今回のような民進党の酷い状況があったとしても、少なくとも1960年代以前の国民党との二択であるならば、民進党が選ばれてもおかしくなかっただろう。しかし、国民党も昔の国民党ではない。野党に転落して以後の8年間、それなりに努力と実績を積んできている。

 国民党は元々台湾社会とは何の関係もない大陸で成立した政治集団であり、それが国共内戦に負けて逃げ込んできて、いつの間にやら台湾社会の支配層の鎮座してしまっただけの存在である。そのあたりの事情は、たとえばWikipediaの二・二八事件の項目などを読んで欲しい*1。──本質的には余所者でしかない国民党によって、戦後長年にわたって恐怖政治の支配を受けてきたというのが台湾の戦後史である。ゆえに、国民党に対する不信感は今でも根強くある。

 で、国民党がその負の遺産にどのように向き合ってきたか、だ。李登輝以後の国民党は、二・二八事件ならびにその後の恐怖政治下における白色テロの犠牲者に対して謝罪を行い、その歴史的位置付けを明確にしている。それだけではない。今回当選した馬英九にしても、台北市長に選出されて以後、犠牲者遺族の追悼式典に継続的に参加している。また、今回立候補が決まって以来台湾農村部の状況について理解を深めるために長期ホームステイなどを行ったりしているのだが、その中でも二・二八事件の被害者遺族との交流を深めるなど、その姿勢は一貫している。

 以上のことを持って、国民党が歴史問題にカタをつけた、という言い方をするのはいいすぎだろう。歴史問題とは、そのように簡単に終わらせられるものではない。ただ、国民党ならびに馬英九氏は、少なくとも10年以上にわたって一貫した姿勢で国民党の負の歴史と向き合ってきている。今では、国民党と共に台湾社会に流れ込んできた人々(外省人)たちも、台湾本土で生まれ育った人たちの世代になっている。好むと好まざるとに関わらず、本省・外省関わらず、ともに一つの社会を作っていくためにどうするべきか、という問いと向き合うしかない。少なくとも国民党は、その問いときちんと向き合った10年という実績を引っさげて今回選挙に臨んだ。そのことを踏まえなければならない。


 かたや、過去と向きあい、「大陸反攻」を掲げる非現実的な大陸政党から台湾を代表する政党へと脱皮しつつある国民党。かたや、台湾人を代表する政党は自分達だけだ、という民族主義的な驕りの上に胡坐をかいていた民進党。そういう構図でもある。もちろん、これは単に「国民党が立派だった」というだけでは済まない。台湾人の政治参加意識の高さが国民党に緊張感をもたらし、変化を強いたのだ。台湾政治の主人公は政党ではない。一人一人の名もない市民である。今回敗北した民進党の支持者も含めて、人々の参加こそが台湾政治の活力をもたらしている。そして、今回の国民党の勝利は、台湾社会が歴史の負の遺産を少しずつ解消し、本省・外省の対立の構図から脱皮しつつあることの一つの帰結でもある。素直に、すごいなぁ、私たちは完全に先を越されているなぁ、と思う。

 ちなみに、郵政民営化旋風で大勝した小泉。台湾人に、あの手法で台湾の選挙に勝てるかと聞いてみた。一笑に付された。恥ずかしいよ、まったく。

*1:それにしても、台湾史はホントにややこしい。一言で言えば、清朝から日本に割譲され、中華民国に返還され、そして今は中華人民共和国から統一を要求されている。三つの中国と日本の間で翻弄され続けた歴史を持つ。