モジモジ君のブログ。みたいな。

はてなダイアリーから引っ越してきました。

ふるさと納税制度とかを考える

 地方財政はあまり詳しくないんだけれど、適当に見てまわって簡単に整理できるところだけ。

三位一体の改革とやらの話

 全体から集めた税金を、経済力のある自治体には薄く、そうでない弱い自治体には厚く再分配する。それを国が仲介する。国税として集めたお金を、国庫支出金と地方交付税という形で、それぞれの自治体に再分配する。今はそういう仕組みになっている。

 この仕組みの何が問題かというと、地方自治といいつつ中央の統制がきつくなること。自由がないんだな。で、権限を中央から地方に委譲するということなんだけど、金のないところに権限だけあってもしょうがないわけで、次のような改革を同時にやるべし、ということになった。

(1)国庫支出金の見直し(てか削減)、(2)地方交付税の見直し(てか削減)、(3)地方への税源委譲

 いわゆる「三位一体の改革」という奴。「国からの移転支出はなくなる代わりに、税源委譲するから地方で直接課税してね」というようなもの。地方の自律性は高まるのだけど、問題は、地域間格差が取り残されてしまうこと。今までは国が間に入って、都市部の税収を地方に還流させてたのだけども、それがなくなる。税源が来ても、ないものはないわけで、地方部では「国庫支出金や地方交付税は減った、税を取ろうと思っても地元経済には税負担できる人がおらん」ということになる。で、消滅した再分配の部分を補うために「ふるさと納税」というのが出てきてるんだと思う。正直、泥縄式改革の感を拭えない。

地方分権ではなく再分配システムの解体

 そもそも、再分配をやるのであれば、できるだけ広い枠組みでやらないと安定しない。つまり、次の二つの自治体があるとすると、どういう人がどっちに集まるのかは、分かりきった話だ。

  • A:高所得層から低所得層への移転(=再分配)を行う自治体
  • B:上記再分配を行わない自治体

 高額所得者はBに集住し、Aには低額所得者ばかりが集まる(が、高額所得者がいなければ再分配もできないので、やがてどこに住むとか、どうでもよくなる)。所得再分配を実効的に行いたいならば、A+Bを一つの枠組みに入れて、その中で全体を覆う制度として再分配しなければならない。「再分配は、ローカルにはできない(ないし、極めて困難)」ということ。

 さらに言えば、累進的な税制を維持できなくなるんじゃないか。というのも、仮に税率が逆進的であっても、高額所得者の方が額としては多くの税金を納めるのだから、そういう住民税率を設定する自治体もやがて出てくるんじゃなかろうか。高額所得者を低い税率で誘致して、数を集めれば、高額所得者向けの高級公共財をより安く提供できる(公共財供給における規模の経済性)。低所得者には、税も取らないが再分配もしなければ支援もしない、ということになるだろう。地方自治体は生き残るために、「高額所得者に愛されるクリーンなゲート・コミュニティになること」を目指す、というわけだ。

 三位一体の改革というのは、地方分権推進などでは全然なく、低所得者向けの再分配・政府サービスのなし崩し的解消、累進税制の解体を「そうは明言せずに」実現するための方便にしかなっていない。地方は自律的になったのではなく、市場の規律によって、ある一つの方向に向かっていくことを強く促されているわけで。つまり、税源委譲も含めて地方分権にするなら、再分配はしない、ということなのだ。再分配が必要ならば、再分配は国レベルでやる方がずっとマシってこと。

じゃ、どうするのか

 多分、地方分権と税源委譲なんか関係ないんだよ。地方分権は分権として進めればいい。でも、だからといって、前と同じ制度では弊害がいろいろあったのも事実だから、それはないだろう。じゃ、どうするか。──お金は国税で集めて、官僚の裁量によらずに機械的に再分配するようにすればいいんだよ。ベーシック・インカムみたいに。問題は、中央による地方の統制なんだから、裁量の余地が入らないようにすればいい。たとえば、「集まった地方交付税を、人口一人あたり幾ら、で単純再分配」って具合に。これなら単純明快で、裁量の入れようがない。住民票と違うところに住んでる人の問題があるけど、これは自治体が積極的に調査するでしょう。「あなた、ここに住んでるのに、うちに住民票ありませんね。ちゃんと住民票移してください」ってやれば、その人が低所得者であれ高所得者であれ、交付税がまわってくるんだから。

 面白そうだな、と思うのは、こういう仕組みにしとけば、「低額所得者の皆さん、そんな仕事してないで、うちいらっしゃい」という具合に、地方自治体同士で競い合うようになるってことだ。むしろ、低額所得者を過疎地が「奪い合う」。こうなると、ホームレスの住民票抹消問題とか、起こりようがないだろうね。なんだかたのしそうだ。自分の頭一つにお金が出ているとなれば、地方政府のお金の使い方に関心が強まるという効果もあるんじゃないか。ありそうだ、きっとある、そうに違いない。そういうことにしておこう。というわけで、地方自治も活性化する。言うことなしだ。

ついでにふるさと納税制度

 ↑に述べたような数多の矛盾を解決(ではないにせよ、せめて改善)するにしては、「納税者の郷愁の念」とやらに期待するのは、いくらなんでも無理がありすぎ。だいたい、故郷に納税したからって、うちのおふくろとかがちゃんと面倒見てもらえる保障などどこにもない。僕ならば、「住民税の安い自治体に住んで、その分、親への直接仕送りを増やす」方を選ぶね。ついでに言うと、単身赴任者などの「地方の一時滞在者」たちは、やがて都市部に戻ることを考えて、赴任先ではなくやがて戻る都市部の自治体に納税することを選んだりするだろう。必ずしも地方部に還流するとも限らんぞ、この制度は*1

 再分配しないなら、ふるさと納税制度とかどうでもいい。複雑になるだけで、効果もよくわからんし、ほとんど意味がない。再分配するなら、ふるさと納税制度なんかより、ずっとマシなやり方がいくらでもあるので、それをきちんと考える。思いつく限りでは、人口頭割りの地方交付税制度一本にしてしまう方がよほど良いし、それよりスッキリした制度があるならそれでもいい。

 中央官庁の交付税関連の仕事している官僚(つまり、裁量をふるっている官僚)と族議員は要らなくなる。まぁ、そのかわり地方自治体の官僚の権限が強まって裁量権をふるい、地方議員が族議員化するんだろうけど。だったら、いっそベーシックインカムでいいのかもな*2

 最後に誤解のないように言い添えておくと、再分配制度そのものの是非は、↑では問わなかった。それはまた別の話。

*1:で、そういう豊かな自治体への「ふるさと納税」を除外する、とかしだすと、豊かな・豊かでないの線引きが問題になるわけだ。どんどんややこしくなる。

*2:ベーシック・インカム人頭税、の方がスッキリしているような気もする。