モジモジ君のブログ。みたいな。

はてなダイアリーから引っ越してきました。

todesking氏に答える──ここでの「意図」とは何か

 「コミュニケーション怖い」@Discommunicative
 確かに僕はkurohituji氏の意図を問題にしているけど、意図を憶測してダイレクトに難じているわけではない。その点は分かりにくかろうと思うので、少し丁寧に説明してみる。

mojimoji 『はじめまして、kurohitujiさん。
あなたの解釈が正しいとすれば、「情報保全隊は、情報収集してよい対象を制限しなかった」ということと同じです。この場合、国会答弁には反しないかもしれませんが、国会答弁(ないし答弁されずにこっそり決められたこと)が、より重大な問題であることになります。なにせ、収集目的も収集対象も限定しないで自由に情報収集できる、そのような権限を持った部門を軍組織内に作った、ということなのですから。

つまり、あなたの書き込みの最終部分に続けて、次の二通りがあるわけですが、あなたの意図としては、次のどちらなのか、という問いもまた、同時に問うことが可能である、ということです。
 (1)「……適用されると思います。(だから問題ありません)」
 (2)「……適用されると思います。(だからこれは答弁違反とかそういう問題ではなく、そもそもこのような強大な権限を持つ組織を作ってしまっているという、より重大で根本的な問題なのです)」
(1)の人は、しばしば( )部分を省いて語ることによって、合法/非合法の問題によって法の実質の問題を隠蔽しようとしますね。kurohitujiさんはどうなんでしょうね。』 (2007/06/10 12:35)

 この部分について、「正面から答えることはせず、そのかわりkurohituji氏の質問の意図を問題にしているように見える」と書いている。指摘したいのは、ここでは意図を問題にしているけれども、意図だけをダイレクトに問題にしているわけではない。むしろ、力点は前半部分にある。


 国会答弁における赤嶺議員の質問を、もう一度振り返ろう。自衛隊員だけでなく民間人も情報保全隊による情報収集の対象になるわけですね。」と述べている。問題とされているのは、民間人が情報収集の対象となっていることであるが、これは果たして(1)機密保全業務に限定して問題にしているのか、(2)限定せず、とにかく自衛隊が民間人を調査対象とすること自体を問題にしているのか、どちらの文脈か、ということである。ここで、赤嶺議員が問題にしているのは、明らかに(2)である。プライバシーその他が問題になるのに、調査の目的など関係ないからだ。

 その上で、ありえる答えについて考える。(2−1)理由はともかく民間人を調査対象とするな、(2−2)限定された範囲内で民間人を調査対象とすることは許容されるべき、(2−3)民間人を調査対象とすることは限定されるべきでない、さしあたり3つの態度があるわけだが、赤嶺議員は(2−1)か(2−2)かがやや曖昧である。で、この文脈で中谷防衛庁長官の答弁を解釈するなら(2−2)となる。

 ここで、中谷防衛庁長官が(1)の文脈で答弁した、と仮定しよう。その場合、(1−1)理由はともかく、情報機密保全業務で民間人を調査対象とするな(他業務では限定なし)、(1−2)情報機密保全業務において、限定された範囲内で民間人を調査対象とすることは許容されるべき(他業務では限定なし)、(1−3)情報機密保全業務において、民間人を調査対象とすることは限定されるべきでない(他業務では限定なし)、のどれか、ということになる。kurohituji氏は、中谷答弁を(1)の文脈で(1−2)を述べたもの、と解釈するわけである。これは、赤嶺議員の質問とは違う手前勝手な文脈での答弁、不誠実な答弁であった、と述べているのと同じである。

 つまり、「中谷答弁と情報保全隊の調査事実」の整合性だけを考えるから、kurohituji氏のような解釈になるのである。そこに、「赤嶺議員の質問」との整合性を考えるならば、kurohituji氏の解釈は成り立たなくなる。さらに枠組みを広げてみよう。「そもそも国会議員は国会で誠実に応答する義務などない、手前勝手に質問を解釈しなおして、都合のよい答えを返してもよいのだ」、そう考えれば、kurohituji氏の解釈が成り立つ余地は増える。

 ここで大事なことは、kurohituji氏が述べている解釈が成り立つ余地があるかどうか、ではない。成り立つ余地なら、常に、ある。問題にすべきは、kurohituji氏が「情報保全隊の調査は答弁違反ではない」という解釈を取るために、一体どれだけの基本的・基礎的命題を拒否しなければならないか、だ。kurohituji氏の解釈が成り立つためには、「防衛庁長官は誠実に答弁していない」、「そもそも防衛庁長官に誠実に答弁する責務はない」といった、よりトンデモな前提とセットでなければならない。そうでなければ、「情報保全隊の調査は答弁違反ではない」という主張は成り立ち得ない。命題を主張するためには、より広い範囲での整合性チェックを行なったかどうかが問題となりうるし、そこで拒否された命題=コストを考えなければならない。考慮に入れると結論が変わるような大事な論点を考慮に入れなかったならば、当然その点を批判されることになるし、トンデモな前提は、それもまた批判されることになる。


 以上述べた内容において、kurohituji氏の意図は問題にしていない。ただ、ある論点を関係のないものとして切り離す所作に不可解さを感じ、その背後にあるものを(ある種挑発的なやり方で)尋ねただけである。そこでkurohituji氏が示した反応は、「私の主張はただ1点です。「・・・」それ以上でも以下でもありません」という宣言である。それがどのような意図でなされたのかは知らない。ただ、彼が考慮に入れるべき論点をどのように考慮に入れたか、あるいは考慮に入れなかったとしてどのように考慮の外に切り離したのか、が示されたのである。彼は、理由なく、論点を限定したのである。恣意的に。そして、僕がここで言う「意図」とは、その恣意性と整合的な何らかの彼の主観的認識のことであり、それはその帰結によって非難に値するものなのだ。その意味で、具体的にどういう意図であるのかはどうでもよいことである。