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モジモジ君のブログ。みたいな。

はてなダイアリーから引っ越してきました。

パレスチナ問題を巡って──中立は可能か

 ま・ここっと氏、fenestrae氏、antonian氏の三人の言説への批判を述べる*1

ま・ここっと氏へ

ま・ここっと『・・・ジェニンについては日本ではイスラエルがあの村に入った段階から伝わっていませんか?フランスではあの事件に至るまでの複線がきちんと伝わっています。私の記憶が確かならば、ですが、パレ側からイスに入ろうとした自家用車があり、当然のごとく国境警備兵が通行証提示を求めた。後部座席に7歳くらいの坊やが腹巻爆弾をして座っていたのですよ。驚いた警備兵がその事実を上官に伝えた。子供にダイナマイト爆弾を巻いてまで敵陣に飛び込むのは何事?となってジェニンについての調査が始まった・・・です。鶏たまご話ではありますが、その後もパレ側の乳幼児の腹巻爆弾のテロが続いているのも事実ですし、パレ側は宗教を絡ませて幼児犠牲や自爆テロを美化しています。』
http://d.hatena.ne.jp/antonian/20060309#c1141894290

 まず出発点とすべきは、次の事実認識である。イスラエルは世界有数の軍事大国であり、最新鋭の現代兵器を多数有し、強力な戦闘ヘリや戦車を使用し、世界唯一の超大国の最大の支援相手国であり、他方でパレスチナは実効的に支配できている領土さえなく、組織された国軍を持てず、自爆攻撃以外の攻撃手段をほぼ持たない。現に占領下にあり、入植・分離壁の建設が進み、それらのイスラエル側の国際法違反の活動を止める手立てを持っていない。
 以上の事実認識が正しいとすれば、まず、パレスチナはまったく無謬であるとまでは言わないとしても、しかし基本的には正当な主張をしているのであり、非は全面的にイスラエル側にこそある。と述べられるだろう。ま・ここっと氏が言う「ダイナマイトを巻きつけた子ども」は、それ自体本当かどうか疑念がある*2。しかし、それは措いて仮に事実だとして考えよう。事実だとして、それはイスラエルの使用している対地攻撃ヘリより強力な軍事力を持ちうるのだろうか。イスラエルの使用している戦車より強力な攻撃力を持ちうるのだろうか。その破壊力において、家屋破壊に用いられているブルドーザー一台にさえ及ばないだろう。その意味で「ダイナマイトを巻きつけた子ども」に驚くべき理由は、少なくとも、軍事的意味としては、ない。当然、ジェニンの虐殺とも何の関係もない。アメリカの入管で爆弾を身にまとった日本人が捕まったら、大阪で大虐殺を敢行する理由になりえるのかどうか・・・って、なりえるわけがない。ナンセンスである。

fenestrae氏へ

# fenestrae 『・・・フランスのマスコミの論調についてどういうイメージ。フランスの主要マスコミ(公営テレビ、公営ラジオ、ル・モンドリベラシオンなどの新聞)が、親パレスチナ偏向しているとして、ユダヤ人団体からことあるごとに desinformation として非難され、場合によっては監督機関に訴えられたりしていることをご存知でしょうか。キャスターの意見の一言が公開質問状の対象になります。マスコミ監視専門団体のようになっているところもあります。そうした糾弾がインターネットに定期的に流されますし、ほとんどワンショット、ワンショットが精査されて語られることもあります。問題のジェニンのときも、フランスのメディアはパレスチナ自治政府のプロガンダ機関になっているという批判を一方の側からはされました。ヘリコプターの機銃射撃が親子を狙った有名なシーンも、なぜそればかり何度も何度も流すのか、イスラエルで起ったテロの報道はどうでもいいのかというように言われましたし、カミカゼになる子供の家族の境遇を美化しているとも批判されます。一方、逆の立場の人たちの意見を聞くと、フランスのメディアはシオニストに支配されているとして、それにおとらぬ批判があります。なぜパレスチナの現状を正しく伝えずに、イスラエルでおきる爆弾テロばかり報道するのかという趣旨です。同じニュースが両者から反対の理由で批判されます。2004年8月にイラクで誘拐されたラジオ局の記者は反イスラエル・親アラブなのに皮肉なものだなどとイスラエル系のサイトから揶揄されたりましました。そうしたものすごい緊張の中で多くのフランスのマスコミ人が仕事をしていることを看過した抽象的な政治的イメージからの安易な親イスラエル、親パレスチナのレッテルを貼りを目にすると私自身が義憤を感じます。もちろん個々の報道の内容に即した具体的な批判はいかなる立場からでも、討論に値するものとして可能ということは言うまでもありませんが。』 (2006/03/11 09:16)
http://d.hatena.ne.jp/noharra/20060309#c1142036186

 先に述べたような圧倒的な非対称性を前に中立的であることなどできない。あるいは、全面的にイスラエルに非があると述べることだけが中立的でありえる。こうした非対称性を念頭に置いて「賛否両論」みたいな報道を聞いたとき、「それは親イスラエルに過ぎる」と述べることは全面的に正しいし、「それは親パレスチナに過ぎる」と述べることはまったく間違っている。我々は賛否両論の中でその真ん中を選ばせようとする圧力=中立幻想に「抗して」、認識を組み立てなければならない。
 フランスのメディアを直接見たことはない。しかし、先に述べたような非対称性が事実認識として間違っていないのであれば、「親パレスチナ過ぎ」「親イスラエル過ぎ」という両論の間で採るべき態度は決まっている。断然パレスチナ側にコミットし、イスラエル側の主張は断じて間違っていると述べて良いし、述べなければならない。フランス・メディアは迷うことなく全面的にパレスチナ支持を打ち出していい。少なくとも、軍事占領と入植地・分離壁の建設が続いている間は。それをしないメディアこそが「偏っている」と僕は断じる。
 踏みつけにされている者には、勝利以外は抑圧である。他方、踏みつけにする側にとっては、引き分けでさえあれば目的は十分に達成しうる*3。中立に立つことは最も安易な道である。その意味で、fenestrae氏の聡明で冷静で中立的な振舞いは、ま・ここっと氏の露骨に強者に寄り添う反省のなさとほとんど同じ効果を発揮する。id:fenestraeさんにお聞きしたい。この圧倒的な非対称性を前に、「双方いろいろ言い分がありますなぁ」な態が中立的な態度であるのかどうか。あるいは、そもそもこの非対称性という事実認識自体が間違っていると言いたいのか。

antonian氏へ

# antonian 『・・・欧州の情報がそれだけ多くの情報を目にすることが出来る環境にある一例ではあると思います。「フランスのマスコミが偏向している」とは思えません。欧州のマスコミは寧ろリベラルが多いという印象ですし、911の時にイタリアにいたのですが、『イスラエルの陰謀だ!!!」などと言っていたコミュニストのおばちゃんまでいましたから。笑)しかし、両方の陣営の情報に常に目を通せる環境であることは確かでしょう。それは健全な環境だと思いますね。
ま・ここっとさん発言に関して言えば、確かに論の表象に見える部分において、ユダヤ寄りの情報を多く語っているのは確かですし(まぁ文面の鼻息がえらく荒いんでなぁ・・・)。また上記にある春山神父の視点も「ユダヤより」ではありますが、環境による立ち位置が違うと違う世界が見えるというのは実は重要ではないかと思っています。己が原理主義化しない為に敢て、様々な立場の人の主張にも目を通すという作業は大切なんではないか?と、まぁ常々思ってはいるのです。』 (2006/03/11 14:01)

 情報に目を通した上で、それでどうするのか、という問題だ。どのように判断するのか。「圧倒的な非対称性」という参照項を踏まえて言うならば、全面的にパレスチナ側に立つべきであり、イスラエル側はまず軍事占領、入植地の拡大、分離壁の建設を中止せよ。それ以外の結論が出てくることなどありえないと思うのだが、どうか。>id:antonian
 両方の意見を並べて間の好きなところを選ぶ、露骨に強者寄りの立ち位置を選ぶ人もいれば、真ん中あたりをつまんで見せてリベラル気取って見せたりする。いずれにせよ、非対称性を参照せずに物を言う以上は同類であると僕は思う。繰り返すけれど、この問題について、両方が同じ位大きな声でそれぞれの意見を述べているからといって、足して二で割れば正しい答えが出てくるわけではないし、正しいかもしれない答えさえ出てこない。両方の陣営の情報に目を通していることは、何の当てにもならない。いろんな情報を聞いて足して割っているだけの人よりは、限定的な情報を聞いているだけでも、少なくとも論理的に思考している人の方がより正しい答えに近づけるだろう。論理的に思考するとは、冒頭述べたような占領と入植地・分離壁の建設その他の問題という事実に照らして、妥当な主張かどうかを吟味する、ということを言う。


 ここで批判した三人の主張が維持されるためには、(1)そもそもイスラエルの軍事占領、入植地拡大、分離壁の建設ということが事実として違っている、あるいは(2)それらは事実であるが問題はない、どちらかが主張される必要がある。是非、それを主張して欲しい。
 その上でもう一つ述べておく。「お前はイスラエル側の被害を無視するのか」という声に対しては、それは「イスラエルによる軍事占領、入植地拡大、分離壁建設の被害者である」と答えよう。

*1:僕が問題にしている「非対称性」について、先に述べてくれている人もいた。こういうのを見ると単純に嬉しくなる。http://d.hatena.ne.jp/kapachi/20060306#1141573836。via.http://d.hatena.ne.jp/noharra/20060309#p5

*2:てゆーか、正直馬鹿馬鹿しい。

*3:http://d.hatena.ne.jp/mojimoji/20050210/p1中のジュディス・ハーマンの引用。