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他者の到来を否定する東京高裁

http://www.asahi.com/national/update/1209/TKY200512090171.html
 明確に、「不当判決である」とここに主張する。*1以下、東京高裁が有罪の論拠にしたことを考える。

高裁判決は、宿舎の出入り口などに「関係者以外立ち入り禁止」との表示がされていたのに立ち入ったことなどを考慮し、「3人の行為は管理権者の意思に反する」と述べ、住居侵入罪にあたると認定。そのうえで表示があったことや、住民が1度抗議をしていることを重視。被害が「『極めて軽微』とした一審判決は誤り」と結論づけた。

1.「関係者以外立ち入り禁止」の表示について

この張り紙が有効であったと言えるためには、当該期間中に配達を行った郵便局員や宅配便配達員をはじめとして、関係者ではないすべての人間を対象とされていたことが示されねばならない。そんなわけはないだろう。われわれの持っている通念上は、郵便ポストへのアクセスは認められる範囲内にあるのであり、反戦ビラも当然に認められるべきだろう。「反戦ビラまきお断り」と明示してあるならまだしも一考の余地はある。しかし、商業ビラを認めているならば、政治ビラお断りは成り立たないというべきだろう。

一つ仮想例を考えよう。たとえば、ピンクチラシ(風俗関係の商業ビラ)が不愉快なので、投函してほしくない。として、「ピンクビラお断り」と明示するのはありえる。しかし、それが性風俗産業への差別等に関する政治的主張のビラであるならば、それをピンクチラシと同列に拒否する権利はないとも考える。たとえば、そのピンクチラシが「売春合法化」を主張する内容(たとえば僕自身がそれに反対するような内容)であっても、だ。それは、表現の自由の範囲に入る。

いずれにせよ、「関係者以外」という表示では、文字通りに取れば郵便局員等も入れない。社会通念から考えるなら、反戦ビラがダメだという理由にはなりえない。曖昧すぎて管理権者の意思表示としては不十分だろう。

2.住民の抗議について

「そっちが聞きたくなくても、こっちには話があるんだよ」。異議申し立てとは、概してそういうものだ。だから、その道を閉ざすことは、民主政治の死を意味する。住民がビラの「内容に関して」不愉快だと述べたのであれば、それは被害にはまったくあたらない。あたると考えるべきではない。

だとすれば、住民の抗議が、いかなる論拠によってなされたものか、明示されなければならない。とりあえず、反戦ビラまきとは、社会通念上入っても問題はないとされている領域で、政治的主張を行っているだけなのであるから。だから、住民の抗議によって入ってはならないと運動家が理解できるためには、その理由が重要になる。住民の安全が問題であるならば、宅配便の配達員が侵入できているなら、安全上の問題はまったくないのである。単に、まかれたビラの内容が気に入らないというだけなら、それは保護される利益であるべきではない。いずれにせよ、このニュースでは、そのあたりが書かれていないので、判決ではどうなっているのか気になるところではある。

結論・他者の到来を拒否するべきではない

もちろん、どんなビラでも構わない、というわけではなかろう。誹謗中傷ビラの類にまで表現の自由があるとは思わない。しかし、そうしたビラは誹謗中傷によって罪となるのであり、住居不法侵入によって罪となるのではない。そのビラの内容が、あくまでも政治的主張であるならば、最大限に守られるに値する権利である。

高裁判決は、存在している他者が私の元を訪れる可能性を不当に剥奪する。それは暴力の到来から守ってくれるというような、決して望ましい内容のものではない。私自身を新しく作り変えていくための糧=(不愉快な)他者の訪れを阻害する、まったく望ましくない判決である。それは人を人から切り離すような判決である。だから不当なのである。

*1:最初は書くつもりなかったんだけど、のはらさんのエントリ読んで僕も腹が立ったので、一言述べておくことにした。