モジモジ君のブログ。みたいな。

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続・タバコ問題

http://d.hatena.ne.jp/mojimoji/20051002/p1 の続き。*1
現象としてのタバコ中毒とアルコール中毒を比較してアルコールの方が問題だというのは分かるが、中毒になる可能性の高低や嗜好品としての意味の違いなど無視してこのように単純に比較するのには無理があると感じる。


そもそも財の性質として非常に大きな違いがあると思われる。「喫煙者を救え!」における「タバコは嗜好品ではない」の議論を見てみよう。ポイントは次の箇所。

他に嗜好品に分類される依存性薬物に、酒(アルコール)やコーヒー(カフェイン)があるが、アルコールは「酔う」という効果、カフェインは「目が覚める」等の効果があり、また酒やコーヒーには「おいしさ」がある。「おいしい」というのは、味付けに使われる、ということである。「お酒の入った菓子」や「コーヒー味のケーキ」などがあるのは、お酒やコーヒーにある種の「おいしさ」があるからである。またお酒やコーヒーは、「摂取をやめなさい」と仮に医者に指示されれば、普通の人はやめることができる。ということは、依存性もかなり低い。だからこれらは「嗜好品」と言っても差し支えないと思う。

ところが一方、タバコは摂取したときの「効果」がほとんどゼロである。つまり、良い気持ちになったりとか幻覚を見たりとか、ハッピーな気分になったり目が覚めたりということが無い(「いや効果はある」と思っている方、それは「効果」ではなく、禁断症状の緩和が自覚されているだけである−−前述)。その上、味もまったくおいしくなく、味付けや香り付けには使えない。例えば仮に、タバコの香りのケーキを作ったとしても、ヘビースモーカーだってそんなものは食べたくないはずである。タバコは本質的に「まずい」ものなのである。また、「タバコをやめなさい」と医者に指示されてもやめられない人がたくさんいる。つまり依存性は非常に高い。こんなものは嗜好品とは言えない。
http://www.letre.co.jp/~iwaki/smokers/smoke05.html


タバコとアルコールの違いとして重要なことは、「その財が本来持っている性質への嗜好性があるかどうか」という点である。タバコにせよアルコールにせよ、その嗜好性は概念的には(1)その財の持つ本来の性質への嗜好性と(2)中毒性に起因する擬似的な嗜好性の二つの要素からなっている。そして、アルコールには両方の側面があるが、タバコには(2)しかないんじゃないか、というのが岩城氏の主張である。(2)しかないということの意味は非常に重い。言い換えれば、タバコに中毒性の擬似嗜好性しか存在しないならば「タバコの嗜好性はマッチポンプなものでしかない」ということだからだ。アルコールの場合には少なくともリスクを承知しながらも財本来の性質を嗜好するとまだ言えるが、タバコの場合にはそれは言えないということになる。よって、中毒症状のみを取り上げて比較した場合にはアルコールの方が重大という見解が成り立つとしても、介入のスタンスは異なる。財の性質についての啓蒙活動を行うにしても、タバコに対しては「完全にやめさせる」ことを主眼とした言説になり、酒に対しては「消費量のコントロールを厳格にする」ことを主眼とした言説になる。

さらに、その財を日常的に消費することと中毒になることの関連性の強さ・弱さも問題になりえる。アルコールの場合には、これを日常的に消費する人はとても多いわけだが、その中で中毒になってしまう人は少数派である。対して、タバコの場合には、その消費者にしめる中毒者の割合は圧倒的に高いと思われる。仮に実際そうだということならば、この観点からも、タバコには廃絶に向けた主張が行われ、アルコールにはその制御に向けた主張が行われることには十分合理性がある。


というわけで、僕は、喫煙者の自己責任を言わないものに限り、タバコへの介入主義を支持する。ただし、禁止政策は基本的には支持しない。それらは別のことである。


追記:それにしても「喫煙者を救え!」の考察は読めば読むほどよく出来ている。次のロジックなどは容易な反論を許さない鋭さがある。

今、タバコは本質的に「まずい」と述べたが、実際はタバコを「おいしいから吸っている」と思っている喫煙者がいるようである。しかしそれは錯覚である。私はずいぶん前から、「タバコはまずい」ということに気がついていた。

愛煙家のあなた、「タバコはまずい」という私の意見に納得できないですか?

では「自分はタバコの味が好きだから吸っている」という方にお尋ねしよう。市販のタバコの中で、「まずい」と思う銘柄はありますか?

あるはずです。市販の全銘柄を「全ておいしい」と思う喫煙者はいません。はい、まずいと思う銘柄は見つかりましたね。その銘柄はあなたにとって、確実に「まずい」。では、明日突然、ほとんどの銘柄のタバコが発売中止になり、その「まずい」銘柄しか入手できなくなったとします。あなたはその銘柄は「まずい」から吸わないですか?つまり、まずいタバコしかない状態になれば、あなたはタバコをやめますか?

残念ながらあなたの答えはNOである。喫煙者は、どんなにまずい銘柄でもタバコであれば吸う。それは、求めているものが「マイルドセブン」でも「キャスターマイルド」でも「マールボロ」でもなく、実は「ニコチン」だからである。今は「まずい」と思う銘柄でも、吸い続ければ必ず慣れ、まずさを忘れてしまう。そもそも、どんな銘柄も、最初はまずいのである。生まれて初めてタバコを吸った時のことを覚えているだろうか。あの時はあんなにまずかったのに、今ではもうすっかり慣れてしまっているでしょう。
http://www.letre.co.jp/~iwaki/smokers/smoke05.html

*1:この辺、若干修正しました。2005/10/05。