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不況は神罰ではない

(2005/08/27 10:14 若干加筆。)
まず、不況の原因について正しい認識を持とう。そして、構造改革なんて政策が、少なくとも不況という問題に対しては何の意味もないことを確認しよう。当然郵政民営化も関係ない。小泉構造改革主義とは今の日本の困難を一部の人たちの悪徳(既得権云々という奴)が招いた神罰だと規定し、そうした悪徳を取り除けば経済は良くなるなどという何の根拠もない妄言に過ぎない。それは「病気の原因は悪霊が取り付いているからで、悪霊を追い出さなければ病気は治らない」などといって、患者を虐待して死なせてしまうインチキ祈祷師の振る舞いそのものである。

そのことを理解するだけで、市民として必要な最低限の経済学的知識の半分以上になっている。*1


経済を子守りしてみると。YAMAGATA Hiroo Official Japanese Page


世界的に著名な経済学者・クルーグマンによる、不況のメカニズムについての的確な解説だ。この文章の最大のメッセージは次の部分だ。

そして何よりも、この協同組合のお話は、経済停滞ってものがぼくたちの罪に対する罰じゃないんだってことを教えてくれる。こういう苦しみは、別に運命づけられたものじゃないってことがわかる。キャピトルヒル子守り協同組合に問題が起きたのは、そのメンバーたちが無能で効率の低い子守りだったからじゃない。この問題で別に「キャピトルヒル的価値観」だの「身内えこひいき型子守り主義」の根本的な問題が露呈したわけでもない。そこにあったのは、ちょっとした技術上の問題だ――少なすぎるクーポンを多すぎる人が求めていた――そしてこれは、ちょっと冷静に考えれば解決できることだし、解決できた。だからさっきも言ったように、この協同組合のお話のおかげで、すべては運命だとあきらめたり、悲観的になったりする誘惑にもうち勝てる。

この部分を読んで、その上でクルーグマンの文章の全文を、何回か繰り返して読んでみて欲しい。そうすれば、「今現在の日本の不況も、無能で高コストの労働者が淘汰されないからだとか、小役人や福祉に集る連中が既得権益を手放さないからだとか、そういう理由からじゃない」ってことを腹の底から納得できる。*2おそらく、経済学の本当の初学者ならまだ分かりにくいジャーゴンがチラホラあると思うけど*3、それでもクルーグマンの言いたいことはなんとなく伝わるんじゃないかと思う。それでも理解しづらいところがあれば、このエントリのコメント欄で質問してくれてかまわない。僕自身の経済学の知識はあまり人に威張れたものではないけれども、それでもそのくらいのお手伝いはできると思う。是非、この文章のメッセージを、多くの人に理解して欲しい。それだけで、小泉の構造改革主義がまやかしであることについて、確信できる。問題は民間需要の不足であり、その原因であるデフレだ。(とはいえ、この面については民主党も似たりよったりではあるんだけどね(悲笑))*4

おまけ・リフレについてさらに学ぶなら

不況の原因について正しい認識を持ったなら、次はその処方箋ということになる。これについてもクルーグマンがいくつもの文章を書いているし、同じ山形浩生氏のサイトで、クルーグマンの文章の翻訳が読める。*5


初心者向け:日本さん、どうしちゃったの?
中級者向け:日本:まだはまってます
上級者向け:日本のはまった罠(トラップ)
そのFAQ:日本の流動性トラップ:追記


初心者向けのは、予備知識ゼロでも理解できます。ここで書かれている衝撃の処方箋は「金をじゃんじゃん刷れ!」という話。この話だけでは不十分であることはクルーグマン自身も認めているようなのですが、クルーグマン風に言うと「この答えは50%は間違っているが、構造改革主義は150%間違ってるから、それに比べればまだ正しい認識と言えるよね」というところ。中級者向けのは、古典的なIS−LM分析の枠組みで説明してますから、大学生の学ぶマクロ経済学レベルで説明してる。上級者向けのは、多分、完全な初学者には厳しいかもしれませんが、まったく手も足も出ないわけでもない。意欲のある人は将来的にチャレンジしておいいかも。


また、bewaad氏の次のFAQは非常に簡潔に整理されているので参考までに。


余は如何にして利富禮主義者となりし乎bewaad institute@kasumigaseki

*1:残りは、じゃあどうすればいいのか=リフレーション、という理屈の話。こちらはもうちょい難しいかもしれない。

*2:もちろん、無能な労働者がポストにしがみついてるのはよくないし、不要な既得権益は解体されなければならない。しかし、そうしたことは今日本が抱えている大問題とは何の関係もない、ということだ。家そのものが傾いているというときに、トイレの掃除がなってないとか、そういうことを気にするのはばかげている。

*3:少なくとも、僕の学生たちに独力で読み通せ、と言ったら、半分以上の学生がかなり怪しいかもしれない。

*4:というのは、民主党は、自民党構造改革を批判して、民主党なりの構造改革を提示しているからだ。どっちも構造改革主義者、という意味では同じ穴のムジナ。ただし、小泉政権は「痛みを我慢しろ」と言っているから、状況がどんどん悪くなっても「予言どおり」になるわけで、その意味で自民党政権はお先真っ暗。民主党の主張はあくまでも僕らの生活をよくすることを目標に掲げているから、実際構造改革なんかやっても良くなるわけがない以上、言ってることの辻褄を合わせるためにリフレ政策に転ぶ可能性は結構あるんじゃないか、とも思う。その意味で、今回こそは政権交代して欲しいかな。やはり。外交政策面での改善も期待できるし。

*5:山形氏サマサマ。