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民衆法廷の意義

 過大評価も過小評価もしない方がいい。「被告人の弁護人すらいない」って話は僕もちょっと驚いたけど、よくよく考えてみると、あまり大した意味はないんじゃないか、とちと思う。僕自身、女性国際戦犯法廷にはシンパシーを感じる人で、その意味で庇いすぎじゃないかという部分もなきにしもあらずなんだけども、まぁ、こういう意見もあるってことで。そんなに的はずれでもないんじゃないか、と思うんだけどね。

 たとえば国際女性戦犯法廷に、日本政府や天皇の弁護人がちゃんといたとして、でその上で有罪判決を下した、って話なら、この民衆法廷に批判的な人は納得するんだろうか?間違いなく納得しないだろう。こだわってるのは形式じゃなくて、その判決の中身のはず。そして、ちゃんと制度化され、その結果を強制力をもって執行する、そうした権威を持つ「本物の」裁判がちゃんと弁護士をつけてくんなければ、これはとても恐ろしいことだが、民衆法廷がそれをしなくても別に怖くはない。どのような形を取るにせよ、弁護人をつけようとつけまいと、民衆法廷はその企画者の言いたいことを言うものにしかならない。*1

 で、だ。民衆法廷ってのは、つまり原告の言い分であって、そして原告は原告なりに被告の主張を考えてみて、その上で「求刑」をするものと理解するなら、弁護士がいないことはそんなに変じゃないだろう。社会、という巨大な法廷の中で原告&検察としての民衆法廷。弁護人がいなきゃダメ!って話は、ちょっと民衆法廷を過大評価しすぎだろう。*2

 そして、その民衆法廷の求刑とその論拠は、たとえば国際女性戦犯法廷に関して言えば、『女性国際戦犯法廷の全記録 (日本軍性奴隷制を裁く―2000年女性国際戦犯法廷の記録)』、『女性国際戦犯法廷の全記録〈2〉 (日本軍性奴隷制を裁く―2000年女性国際戦犯法廷の記録)』という形で、その内容がしっかりまとめられている。我こそは弁護人、という人は、これらを元に実際に弁護してみてはどうだろう?*3今のところ、国際女性戦犯法廷はほぼ黙殺されていて、内容に踏み込んできちんと反論している人は見たことがない。もしあれば、誰か知ってたら是非教えてほしい。かなり興味あり。

 話を戻そう。そう考えてくると、民衆法廷が形式的に弁護人だけつけて、で出来レースの判決を出すよりは、弁護人をつけない欠席裁判というのはいっそ清清しいとすら言える潔さといえないだろうか。ひいきの引き倒し?いや、否定はしないけど。

 ただ繰り返しになるけど、国際女性戦犯法廷の中身に踏み込んだ批判はやはり見たことがない。もちろん、中身に踏み込んで持ち上げている人もやはり見たことがなくて、それどころか法廷を膨張していた大半の人にとっても、判決以外のロジックの部分はチンプンカンプンの人も多かったのだろうことは想像に難くないけどね。けど、そういうことって実はどうでもよくて、従軍慰安婦の問題をちゃんと問えば、このような判決が出せるぞ、ということを、論理の中身も含めて提示したことにはやはり意義があったと思う。

 で、NHKの番組改変問題。国際女性戦犯法廷を取り上げながら、その判決部分を見せない、主催者の松井やよりのインタビューを削る、元従軍慰安婦を名乗る証言者の肖像を用いながらその証言をカットする(これはヒドイ人格権の侵害だと思う)、これを偏っていないと言うなら、一体何が偏っているのか分からなくなる。そもそも「問題がある」というその内容を伝えることを拒否したのだから。相手の言い分をちゃんと出して、でそれを問題だというなら、「左翼のたわごと、相手にする価値なし、残念!」という結論を、NHKの上層幹部が責任を持って番組の中心にすえればよかったんだよ。(というのは、8割がたhttp://d.hatena.ne.jp/Jonah_2/20050114のコメント欄でJonah_2さんという方が言っていることの受け売りですが。)
そして、批判を受けて、論争の当事者として雄雄しく振舞えばいいものを、姑息な手段を使いおって。というのがとりあえず今の見解かね。

*1:2005/01/20追記 法廷主催者は国側にも出席を要請したらしいけど、断られた、ということを言っている。ただ、出席を要請したとき、断らずに出席する可能性など、よもや信じてはいなかっただろうから、やはり「一応要請しましたよ」というアリバイ作りにしかならないのは確かだろう。ただし、それでも重ねて言わねばならないことは、「アリバイ作りにしかならない」のは法廷主催者側の責任ではまったくなく、民衆法廷が開かれてもなお未だに責任追及をまったくしない国の姿勢にこそ責任がある。だから、この点は法廷を批判する論拠には、やはりならない。

*2:「じゃ、裁判とか言うなよ、紛らわしい」という意見は多分正しい。けども、「民衆原告訴状陳述」とかじゃパンチ力弱いし、「法廷」以上に黙殺されちゃうじゃん。かえって滑稽だ。

*3:この国際女性戦犯法廷の2冊、かなり前に買ってはみたものの、当時気になってたことを2点ほど調べて、それきりおきっぱになってます。膨大なので、今のところ読む予定もないし、本業優先ですが、誰かがこの中身に踏み込んで反論したりしはじめたら、読もうと言う意欲も高まるかもしれません。