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+α:ドサクサ紛れの女性国際戦犯法廷への中傷

 女性国際戦犯法廷が行ったことは、日本がその真相究明を放棄している従軍慰安婦問題を、民間レベルででも可能な範囲で追求したということだ。安倍氏はドサクサまぎれにあの法廷を批判していたが、その原因のすべては日本政府の怠慢にある。なぜ法廷が必要だったのか。日本政府が真相究明への努力を怠っているからだ。未だに隠匿されている戦争当時の行政資料さえある。法廷の内容に問題があるならば、日本政府としてきちんとした事後処理をすればいい。それをしないから好き勝手いわれることになる。*1

 さらに女性国際戦犯法廷に関して、「北朝鮮工作員を検事、日本と天皇を裁く側においた法廷」と言っていた。北朝鮮というキーワードを出せば、誰もが自分の味方になるだろうという計算づくの態度にしか見えない。Nステ加藤氏が「自分も面識のある人だが」と、驚きを隠せない様子でその点について尋ねたところ、これは「広い意味での工作員」ということで、「北朝鮮について良い印象をもってもらうために報道関係者に働きかけたりすること」も「工作員の仕事」であり、そういう仕事をしていた「工作員」ということらしい。だとすれば、これは外交官を「工作員」と呼び変えただけに等しい。どこの国でもやっていることだろう。そして、北朝鮮から政府の許可を受けて国外に出られる人々は、拉致被害者でさえもが日本に帰国した当初はそうであったように、北朝鮮政府ににらまれるような発言はできない、自由には行動しえない人々である。その意味で、安倍氏の理屈に従うなら、北朝鮮からやってくる人は皆工作員であろう。彼は殊更に工作員工作員と連呼していたが、これはかなり悪質な印象操作だ。

 従軍慰安婦問題が朝鮮半島全域にわたる問題であるため、北朝鮮もその範囲に含まれることは確かだ。他方、現在の北朝鮮の政府が独裁的な政権であり、従軍慰安婦問題の告発が、北朝鮮政府に政治的に利用される可能性は当然にある。その意味で、この法廷において北朝鮮の取り扱いをどうするかは、幾つか選択肢はあっただろう。どのような形が望ましかったかどうかは僕にはよく分からない。北朝鮮抜きというやり方がありえて、あるいはありえなくて、その中で議論があってあのような形になったのだろう。それがよかったかどうかは分からない。ただし、唯一言えることは、北朝鮮からの二人の参加がどうであれ、あの法廷の基本的な意味や価値が変わるような重大事ではない、ということだ。安倍氏は明らかに、昨今の日本における北朝鮮への悪感情を利用しようとしている。そして、法廷が必要とされる根底的な要因として、彼自身もその中枢にいる日本政府の怠慢があることには口をぬぐっているのだ。

*1:一応念を押しておくと、好き勝手、というレベルのものではないというのが僕の印象。どうしても自分の目で確認したい人は、『女性国際戦犯法廷の全記録 (日本軍性奴隷制を裁く―2000年女性国際戦犯法廷の記録)』、『女性国際戦犯法廷の全記録〈2〉 (日本軍性奴隷制を裁く―2000年女性国際戦犯法廷の記録)』を参照。